原発のウソ(小出裕章)
筆者は、京都大学原子炉実験所助教。原子力の研究者でありながら(だからこそ?)、ずっと原子力発電所に反対を唱えてきた人物だ。
結構なお年でありながら、助教の立場に甘んじているのが、研究業績のせいなのか、それとも別の力学が働いていたのかは、昨今の世の中の動きを見れば、自ずと知れるように思われる。
原子力発電所の問題は、ずっと以前から聞きかじっていた。放射性廃棄物がどんどん蓄積され、地下深くに埋められていることや、原発のコストにはやがて廃炉にしたときのコストは含まれていないことも知っていた。
コストのことをいえば、火力、水力だって含まれていないが、両者は取り壊した後、すぐに別の用途に土地を転用できるのに比べて、原発の跡地は、数十年間にわたって使用することができない点に、決定的な違いがある。どう考えても、無理をしているよなぁ、というのが、率直な思いだった。
放射能を浴びると、遺伝子レベルで細胞が壊れて、再生されなくなるために、重篤な結果を招いて命を失うこと、ウランの方が石油よりも先に枯渇するかもしれないことなど、様々な問題点を淡々と語る本書からは、40年間、危険性を訴え続けながら、今回の危機を避けることのできなかった筆者の忸怩たる思いが伝わってくる。もっとも、ホントに反省すべきは、危険に目をつぶりながら、提灯を振り続けた人々ではないかと思うのだが・・・。
日本人の良心をくすぐる1冊だった。
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